ばよりん弾きのBlog

2008年7月のエントリー

今回、一番心配していたのは、実はこのドイツ語のテストだった。学校も先生も見つからず、自力で勉強して、たった半年。
全く自信はなかった。

まずはヒアリング試験から始まるらしい。
試験官がテープを回す。
スピーカーから、言葉が流れ出した。これをディクテーションしなくてはならないのだが...

...

......

完全に宇宙語である


これは...

無理だ...(´Д`)

〜 〜 〜

昨日は夜の9時から湖畔で演奏会でした。こちらはこの時間でもまだ明るい!

しかし会場が半野外だったため、日が沈んでからは虫の奇襲に怯えました...

あああ楽譜にトンボ大の緑のしましまの虫がっっ!

気になって弾けん!!

今日はラ・ロック・ダンテロンという場所で演奏会。

今日も半野外...

元気出して行ってきます!

試験会場は一次試験の教室と一緒だった。違うのは、あの時はごったがえしていた受験生が、今は数えるほどしかいないことだ。

私は、会場前の廊下で、同じクラスだったロシア人の少年と少女を発見した。

「Hi...おめでとう」

「あなたも」

お互い自然に笑みがこぼれる。ジャングルで戦友に会った気分だ。

「受験生は教室の中へ!」

間もなく私達は会場の中に招き入れられる。

会場の入り口で、私は振り返って廊下を眺めた。

エストニアの少女は、いなかった。

〜 〜 〜

昨日は結局アルルを通りすぎ、レ・ボーという城塞都市に行ってきました。

山を利用した自然の要塞からは、はるか眼下に広大なオリーブ畑を臨めます。

石畳、鈎の手に曲がった道の先には細い階段があちらこちらに続き、まるで迷路のようです

実に美しい場所なので、是非一度訪れてみて下さい。
今日はオーヌ湖の畔で演奏会です。行ってきます!

どうしよう。

もう、ドイツ語の試験の時間が迫ってる。


「おめでとう☆」


慌てふためく私の背に、突然明るい声が降り注いだ。
振り向くと、クラスが一緒だった韓国人の少女。


「あ...ありがとう。で、あなたは...」


彼女は首を横に振り、顔の前で人差し指を小さくクロスさせた。


「ダメだったの。また来年。」

「そう...なんだ...」


昨日は彼女にあんなに慰めてもらったのに、私の口からは、そんな間の抜けた言葉しかでてこなかった。


「3次試験、頑張って!」


明るく笑う彼女に、自信がないわ、とはとても言えなかった。


私は無理矢理微笑んで、試験会場に向かった。

〜 〜

今私はエクサンプロバンスという南仏の街にいます

旧市街を1人で歩いてるのですが、言うまでもなく完璧に迷子です。

どうやら朝市の中に迷いこんだみたい。辺りはスパイスやオリーブの香りで満たされてます。

今日はフリーなので午後はバスに乗り、アルルなどを訪ねてみようと思います

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勿論翌朝の目覚めは最悪だった。

明日は日本へ出発である。
午前中、私はだらだらと買い物をすませ、午後何をすべきか考えていた。


「一応、結果見に行ってみれば?」


マーラの言葉が蘇る。


「行ってみるか...」


試験の合格発表の掲示板は、すでに午後も過ぎていた事もあり、人影がなかった。
ああ、いやだなあ、見るの

発表の紙は実にお粗末な物で、A4の白い紙に、20人ほどの名前がボールペンでかきなぐられている。


「ta...」


私は目を細めた。


「ta...kenaka...noriko?」

???


なんだこりゃ!?

これ、私の名前じゃないのか!?


「大変だ...」


私は悲鳴を上げた。


「ドイツ語のテスト!!」


〜 〜 〜 〜

私は今パリにいます。今からマルセイユ行きの飛行機に乗るところ!!

ウィーンの旅行記が終わる前に次の旅行が始まってしまいました。

行ってきます!!

体のコントロールがきかない上に、守りの演奏に

なってしまったら、目も当てられない。

私は、震える体で、なるべく大きく、大きく曲を

表現した。

ブラームスは途中で止められ、試験官はしばらく

協議した後、パガニーニを指定してくる。


違う曲だから、落ち着いて弾けるかと思っていたが、

未だ震えはおさまらなかった。


はぁ


あんなに練習したのに、たった10分。

緊張という舞台に住む魔物に飲み込まれると、全てが

台無しになる世界。


緊張だけでなく、体や精神的な疲れも今回はあったの

だと思う。

完璧なセルフコントロールミスだ。


なんとかパガニーニを弾き終わって、私は惨めな気持ちで

会場を出た。


「ノリコ」


ゲラルドが駆け寄ってくる。


「ダメ、私、だめだった・・。」


「すごくよかったよ。僕はここから聞いていた。

ブラームスの音、綺麗だったよ。」


「本当にだめだったの。全然弾けなかったの。

私、私は・・・・・・」


涙が溢れる。


「大丈夫よー」


同じクラスだった、10歳も下の韓国人の少女達が

寄ってきて私の背をなでてくれた。


「元気出して。」


初日に出会った、エストニアの少女も励ましてくれる。


「ノリコ」


別な方向から、声。

ふと振り向くと、


「マーラ!」


私を居候させてくれてるマーラだ。


「何してるの?こんなところで」


「何って・・こんな日にあんたを一人にしておくわけに

はいかないでしょ」


数時間前のゲラルドと同じ台詞を言い、彼女は私を

抱きしめた。


どんだけ頼りないんだ、私


「全然弾けなかったの。すごく緊張して振るえまくって、

右手でビブラートかけちゃったの!!!!!」


「そんなの!誰だって緊張するのよ。

でも、案外思ってるほど悪くないかもよ。」


マーラは、カラカラっと笑い、それは私の気持ちを随分

楽にした。


「とにかく、実技が終わったんだから祝わなきゃ!飲みに

行くでしょ!?リディアとアリスンも来るわよ。彼がゲラルド?

はじめまして!一緒に飲みにいきましょう!」


本当は明日はドイツ語の試験があるのだが、間違いなく

落ちているだろうと思った私は、頷いた。


その夜、私達はウィーンの街の酒場で、大きなスクリーンで

サッカーの試合を見ながら、おおいにはしゃいだ。


「想像してみて。」


私は言った。


「こんな時に、私が一人ぼっちだったら。

実技で失敗して、一人ぼっちでホテルに帰って、一人で

ご飯を食べなきゃならなかったとしたら!」


「バカね!」


居酒屋の喧騒に負けまいと、私達は半ば怒鳴り合うように

語り合う。


「私達がいるわ!」


「今回、みんなにまた会えただけでも、価値ある旅行

だったよ!」


「何言ってんの!まだ結果はわからないわよ!」


深夜まで騒ぎ、私達は帰途についた。


今回は、私自身の弱さを再認識する旅だった。

演奏はもちろん、これからは精神的な強さを

身に付ける訓練も、今まで以上に真剣にやっていこう。


「ノリコ、明日はどうするの?」


ベッドに入る前、マーラは私に聞いた。


「うーん、本当はドイツ語のテストだったんだけど・・

多分落ちてるから、行かなくていいと思う。

学校にもいかない。

お土産とか、買いにいこうかな。」


「そう。じゃあ、明日、ショッピングできそうな場所を

地図で教えてあげる。

でも・・・一応結果見に行ったら?」


「うーん・・」


私は生返事をしながら、ベッドに入った。


眠れそうに、なかった。

あさってから、長期の海外ツアーにはいります!!

で、明後日朝の便で発つので、明日金沢を離れる

のですが・・・

出発前に15時半から、21世紀美術館で

プチ演奏会があるよ☆ 笑

お時間ある方はお散歩がてら是非是非~

無料ですぅ ☆


~ ~ ~ ~ ~ ~


半ば押し込まれるように試験会場に入ると、

部屋の奥に、ずらりと試験官が並んでいるのが見えた。


長く学生をやった私から見れば、慣れた光景である


・・・・・はずだった


違う。


ここは違う。


座っている人たちは、私が憧れている、普段は、CDや

テレビでしか見られないような人たち。


本当に、ここで私弾くんだろうか・・


逃げ出したくなる。


「彼女は誰だ?」

「だれが棄権したんだ?」

「えっ?前の受験者が見つかったって?」

「いや、かまわん、君弾きなさい」


試験官も、、私の前の受験者がこないことで少し

混乱状態だった。

私のピアニストが慌ててやってくる。

どうしよう、集中できていない。


ピアニストの方を振り向く。

彼女はもう、ピアノの前にすわり、こちらを見据えていた。

弾くしかない。


私は、彼女に向かって、微笑みかけた・・・・・・


つもりだが、その笑みは明らかに緊張で凍り付いていたと

思う。


ピアニストは、こっくりとうなずき、

その両手を鍵盤の上にそっと落とした。


ポーン ポーン・・・


運命の三度が鳴る。


私は、楽器を構えて、右手を・・


あ、ダメだ。

来た・・・。


泣きたかった。


震えだ。


弓をもつ右手が、震えている。


そっと、愛を囁くように始まる第一音は、もちろん

期待できなかった。


弓が、無事、弦の上を着陸できるかどうか、それすら

も怪しかったが、流れ出した音楽は止められない。


思い切って、弓を弦の上に降ろす。


普段は、繊細にしなる弓が、今は鋼鉄の棒に

感じる。


カツン・・


しなりを失った私の右手と、弓は、弦に弾きかえ

された。


無理やり、弓を弦に押し戻すと、ぶるぶると悲しい

振動を繰替えしながら、しかし、ようやく弓は楽器の、

その軌跡に乗った。


震えは止まらない。

でも、弾きつづけるほかない。


溢れる愛を表現しなければならないのに、私は

自分自身を制御することに手一杯になって

しまっている。


こんなの、4年ぶりくらいだ・・・・


こうなったら、もう演奏が終わるまで、制御はきかない事を

私は経験上、よく知っていた。


震えることを制御するより、

震えている中で、何をするか


そこに集中することが、唯一の生き残りの道に思えた。


ブレーキを失った車に乗ったような気分で、

私の演奏は、続く。

「ノリコ、そろそろだ。あと20分くらい」


私が休んでいた部屋に、ゲラルドが迎えに

きた。


「ノリコ、何か食べる?あっ、水は?トイレ行く?

おっ、落ち着いてね!」


・・お前もな(笑)


体の調子は未だあまりよくなかった。

右手は相変わらず痺れているような感じで

感覚が乏しい。


でも、弾くしかない。


私はゲラルドのあとについて、試験会場に

向かった。


会場についたとき、私の前にはまだ受験者が

数人いた。


「ノリコ、バックステージで練習してなよ。近く

なったら呼ぶから。」


ゲラルドの言葉に甘えて、私はバックステージに

向かう。


もう、楽器を弾くべきでない。集中だけすれば

いいはず・・・


なのに、私はやはり緊張のあまり、音を鳴らさずには

いられなかった。


ちょろちょろっと音を出しかけた時、


「ノリコ」


ゲラルドがやってきた。


「君の番だ」


「えっ・・・、まだ私の前にも受験者が・・」


「その人が来ないんだ。だから、もう君の番だ」


うわっ

サイアク、このパターン!!


私は慌てて会場に向かった。


今日は、朝からテレビ収録→ラジオでおしゃべり^^

どーでもいいけど、本当に暑い。

でもこれからツアーで行くハンブルクは18度しかない

そうな!!

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

学校についたのは、私の試験予定時刻より一時間以上

も前だった。

とりあえず会場をのぞこう。

ホールのある建物の入り口をくぐった瞬間


「Noriko!!」


懐かしい声が、私を引きとめた。

振り返ると、


「ゲラルド!!!」


私は思わず目を見張った。


彼は仲良しのウィーンっ子。

でも、今フォルクスオーパーの仕事で

日本に行っていてすれ違いのはずだったのに・・


「どーしたの?どーしたの!?ゲラルド、

今日本で仕事してたんじゃなかったの!?」


「昨日帰ってきたんだ」


「昨日!?うそ、じゃあまだ時差ぼけひどいんじゃ

ない?こんなところで何してるのよ。」


「何って・・君を待ってたんだよ。」


「私を!?いつから?」


「朝から!」


「朝からっ!?」


私は絶句した。


「こんな大事な日に、君を一人にしておくわけには

いかないよ。」


ええええええ

うっそぉ・・・・・・・・・


この国にきて、レッスンをお願いしていた先生と連絡

がとれなかったり、

言葉ができなくて、適当にあしらわれたり、


やだな、ってこと多かったけど。


こういう子もいるんだ。


私は、ゲラルドにゆっくり準備できる部屋を用意してもらい、

順番を待つことになった。


昨日今日と海&山でバーベキュー三昧でした

うーん

焼けた!!!!!!!


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~


ブラームスと丸一日格闘して・・


いよいよ、実技試験の日の朝。


目が覚めると・・


・・・あまり調子が良くない。


しまった


私は内心舌打ちした。


大事な本番の直前はペースを崩して練習するのは

私にとって、厳禁なのだ。


しかし、ブラームスの暗譜が心配だったあまり、

ペースを乱して練習した私の両腕は、なんとなく

目覚めた瞬間からだるく痺れているような感覚だった。


こんな日は、もう本番と言えど、練習をしない方が

いいに決まっている。


頭ではわかっていても、暗譜が心配な私は、やはり

音を出していないと落ち着かない。


緊張してるんだ。


体が悲鳴をあげているのに、楽器に触ってしまう。


だめだ。


無理やり楽器をしまって、ベッドに寝転がり天井を

見上げる。


『私はおちついている。』


自分に言い聞かせてみる。


しかし、いつもは数回繰り返せば穏やかになって

くるのに、今回は効きそうになかった。


6ヶ月、本当に頑張ったからな・・・


真剣であれば、あっただけ、私の本番前の痛みは

大きい。


私、真剣だったんだ


コトン、と心の中で音が鳴るようにそう気付く。


行こう


家でただ待っていても、緊張がつのるばかりだった

ので、私は手早く身支度を整えた。


『私、緊張したことないの』


『緊張しても大抵本番が一番良く弾けるかな』


世の、ソリストとしての素質を備える人たちは

大抵そういい、屈託なく笑う


でも、

私はずっとずっとそうではなかった。


どんなに準備しても、本番で5パーセントの力も

出ず、

「それが実力なんだ」

と言われて、何度も何度も泣いてきた。


自分が舞台に向かないと知って、どれだけこの道から

逃げ出したいと思っただろう。


でも、やめられなかった。


どんなに羨ましがっても、根本的は素質は変えられない。


私は、緊張する人間だ。

もうそれは、変えられない。


でも、こんな緊張、


今までに何度もあったこと。


これからも何度も起こること。


行くしかない。


それでも、幕は上がるんだ。


今日は友人と3人で占いに行ってたのですが・・・

2時間占い師に説教されてしまった(笑)

とほほ

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

レッスン室から出て、階段を降りると、掲示板に人だかり

ができている。


あ、一次試験の発表かあ


のぞいてみると、


あ。ある。


よかったー

名前がある。


学科の試験があると知った時は、ドイツ語能力0だったので、

間違いなくこの一次で落ちると思っていたからうれしい。

2次試験のためにバイオリン持ってかなくていいんじゃないか

と思っていたくらいである


あー、一応バイオリン持ってきておいてよかった。


2次試験は2日後。


がんばろう


でも、ブラームス・・・・・・


練習しよう

雨の歌。


呼吸するように流れる音楽。


あまり練習はしていなかったけど、何度も弾いている

曲だから、私はすっかりピアニストの懐でのびのびと

羽を広げて飛ぶ鳥のような気分になることができた。


「Noriko」


弾きおわると同時に、ピアニストは私の目をまっすぐに

見ていった。


「あなた、この曲を一番初めに弾いてみたくはない?」


「えっ!?」


私は思わず絶句した。


「私は・・プロコフィエフとパガニーニを集中的に練習してきた

ので・・ブラームスに関してはあまり考えていなかったんです

けど・・・」


「あら、そう?

でも・・・とてもよかったわよ」


ピアニストの言葉に、韓国人の少女達が、カクカクと首を縦に

振った。


「あなたはもう、17歳ではないわ」


私をのぞきこむ瞳は、真剣だった。


「あなたのようなプロコフィエフを弾く受験者はたくさんいる。

でも、あなたのようにブラームスを弾く子はいない。」


え・・・・・・・・


「確かにあなたは、他の受験者よりずっと年は上だけど、

だからこそあなたにしかできないことがあるわ。

'室内楽'を見せるのよ」


そうか・・・・。


なんだか随分遠くまで来た気がした。


こうして人は知らない間にあっというまに大人になっている

のかもしれない。


ここに来てから、自分の年がひたすらハンディキャップだと

思っていた。


でも・・・・


大人であることもなまじ悪いことではないのかもしれない。


「ブラームスのこと、考えておいてね」


私は、その言葉を背に受けながら、教室を去った。

昨日は名古屋公演でした!

来てくださった方、ありがとう。

なんだか、行くたびに知った顔に出会えると、故郷

に帰ってきたような、そんな安堵感を味わうことが

できます。

本当にありがとうございました!

次回は9月、クレーメルでねっ

(売れ行きが良いみたいなのでお申し込みは

お早めにぃ^^)


~~~~


さて、旅行記続き。


ベグライターに、名前を呼ばれて飛び上がった私。

もちろん拒否するという選択肢はない。


「何を弾くの?」

「プロコフィエフとブラームスを。」


彼女の問いに、用意してきた楽譜を手渡しながら、私は

答える。


「どちらから弾く?」

「プロコフィエフを。」


プロコフィエフの2番のコンチェルトはバイオリンソロで始まる。

自分のペースで曲をスタートさせられるので、緊張しぃの私は

この曲を重宝している。


もうとうに夕方だが、なぜかまだ日が高い。

白い光に包まれた、小さな教室で私はプロコフィエフを弾き

始める。


数段弾いたところで、コントラバスを模倣したひそやかな声で

ピアノが寄り添ってくる。


うん、、、ちょっと速いな。でも、ついていけないテンポではない。

乗ってみよう。


曲は、滑らかに横にながれるテーマから、ふいに生気を伴って

駆け出しはじめる。

そして、まるでジュリエットがバルコニーでロミオを待つような

ロマンチックな愛のテーマ。

それでも。

いつもプロコフィエフのサウンドは、どこか機械

仕掛けというか・・何故か滑稽で、皮肉をはらんでいる。


おもちゃの世界みたい。


いつも、そう思う。


3ページほど弾き進んだところで、ピアニストは私を

止めた。


「いいんじゃないかしら。弾くとしても大体この位までよ」


だろうな。

何百人って人が受けに来るんだから。


軽く、テンポのことなど打ち合わせした後、


「じゃあ、ブラームスのソナタ一番。」


彼女は言った。


ブラームスか。

あんまり練習してないけど、せっかくだから合わせて

おこう。


小さな呼吸のあと、ピアニストはそっと鍵盤に指を

降ろした。


ポーン・・


運命の三度。


この曲の最初に煌く音を、私は密かにそう呼んでいる。


特に、意味はない。

でも、もしも。

私が自分の人生の中で何かものすごく運命を感じる

ことがあったら、きっとこのト調等の3度が

自分の頭の中で密かに鳴るような予感がしているだけで

ある。


私は運命の三度のあと、そっと弦の上に弓を滑らせた。

華やかに、ヴィニアフスキーの演奏が終わった。

私と、韓国人の少女は、まだ声を押し殺しながら

くつくつと笑ってる。


いけない、いけない。私としたことが。

いい大人なのに、すっかり学生の気分になってしまって

いる。


ロシア人の少女と、ベグライターは、なにやら打ち合わせを

しているようだが、案の定ロシア語の嵐で、全く何を言って

いるかわからない。


と、


ロシア人の少年が立ち上がった。


お、今度は彼の番か。


少年は楽器をケースから取り出し、ロシア人の少女と

入れ替えに、ピアノの隣に立った。


慣れた調子で弾き出した曲は・・・


グラズノフ!!


信じられない。


なんて大人びてセクシーなサウンド。


使用楽器は・・・

そこそこ古いドイツ辺りの楽器だろうか。

それで、この音。


この子は絶対受かるだろうな。


思わず聞きほれてしまう。


教室内の皆も安心顔で聞いている。

きっと、彼らはこの受験のために、ずうっと前から

ウィーンで暮らしているんだろう。

そして、定期的にこうしてピアノ合わせやレッスンを

しているんだろう。


なんだか、自分が仕事の片手間に受験をしにきて

しまったような、罰の悪い気持ちになってきた時、


「Noriko」


不意に、ベグライターに名前を呼ばれて飛び上がった。


「次、弾いてみない?」

本当に、この教室でいいんだろうか・・

ひょっとしたら、全然関係ない場所で待ってるんじゃない

だろうか・・・・


めちゃくちゃ心配になってきたところで、廊下の向こうから

華やかな雰囲気の一人の女性がやってきた。


「HELLO!」


教室の前に立っていた、どこの国の人だか不明の少年少女と、

韓国人の少女2人は、慣れた調子で彼女に挨拶をし、教室に

入っていく。


私は未だこの教室が私の行くべき場所か、はっきりしていなかったが

とりあえず、彼らの後に続いた。


と、


「Noriko?」


その女性は、居心地の悪そうな私に気付き、顔をほころばせた。


「私があなたのベグライター(ピアニスト)よ。よろしくね」


ああ、よかった。ここで合っていたんだ。


「じゃあピアノ合わせをはじめましょう。誰から?」


その質問に、すぐにバイオリンのケースをあけたのは、

まだ何人だかわからない少女。

少女とピアニストは、楽しそうに私の知らない言語で

会話を始める。


「スパシーバ」


やっと、ひとつ小さな単語が耳に入った。

あ、ロシア語。

ロシア人だったんだ。


彼女がバイオリンを構える。

紡ぎ出された曲はヴィニアフスキー。


瑞々しく、若々しいアプローチ


うまい


感心して聴いている時、向かいの席に座っていた

韓国人の少女が、なにやらパクパクと口を動かしている

ことに気付く。


ん?


(ア・・・

ナタハ・・・

・・・・ニホンジンデスカ・・?)


黒い大きな目をくるくると動かして私の顔をじっとみつめる

彼女。

ううう!

かわいい!!!


私がこっくり頷くと、彼女はまた、ぱくぱくと口を動かし

始めた。


(オ・・・

オナカ・・・

オナカスイタ!!)


ぷっ、と私は思わず吹き出した。


韓国人の少女達は、自分の日本語が私に通じたことに

喜んでいるジェスチャー。


かわいいなぁ


今度は、私が彼女達を見つめて口を動かした。


(ペゴパヨ!!!) (お腹すいた、の韓国語です(笑))


きゃぁっと、彼女達は歓声をあげて笑った

さてさて、再び旅行記に戻りましょう☆


音楽理論の試験のあった午後、私は実技試験の

為のピアノ合わせがあった。


ここも、日本と違うところだ。


日本の入試は、ピアノ伴奏無しで一人寂しく演奏

したが、ヨーロッパは入試といえど、伴奏者がついてくる。


リッチだぁ


伴奏者。

どんな人なんだろう。


ドキドキしながら指定された部屋に向かうと、その部屋の

扉の前に、少年と少女が立っており、彼らは、私には

何語かも想像できない言葉でしゃべっていた。


こ、ここの部屋でよかったんだろうか・・・


心配になった私は、とりあえず英語で質問してみる。


「あの・・・、ここの部屋、どなたの部屋だかご存知ですか?」


「・・・・・・??」


通じない!!


仕方ない、ドイツ語で同じ質問をしてみる。


「・・・・・・??」


通じない!!!


・・・・・・・

困った・・。

一瞬気まずい雰囲気が流れたが、彼らは再び会話を

始めた。


ひどく孤独な気分で、私は扉の前の廊下にもたれかかった。


とりあえず、待とう。


と、ほどなく廊下の彼方から、甲高い歓声を上げて、二人の

アジア人の少女が駆けてきた。

韓国語。

韓国人だ。


箸が転げても可笑しい年頃。


そんなころが私にもあった。

彼女達は、まさしく真っ只中だ。


彼女達も、私の待つ扉の前で止まり、じゃれ始める。


ああああ・・・

何と・・・・・・


インターナショナルなんだ。


バベルの塔を作った人々が恨めしかった。

今日は大乘寺で演奏会でした!!

あ・・

あ・・・


暑かったね (笑)


暑くてトークがカミカミですいません(笑)


でも、いっぱいのお客さんですっごく嬉しかったです!

池にはハスの花も咲き始めたらしく・・

お散歩なんかもしていただけたんじゃないかと思います♪


それにしても・・・


ドイツ語で、蚊が

 
みゅっけ


っていうの、印象的だったね(笑)


カワイイ

そーいえば!


今度の土曜5日は大乘寺というお寺で演奏会なんですう。


クラシック音楽とお寺という組み合わせは、一瞬

なんとも妙なのですが、これがまた案外いい音が

するんですよね。


お寺が木でできてるかなー


今回は、名曲をお届けしよう!


ということで、私はツィゴイネルワイゼンや、

タイスの瞑想曲などを弾きます。


作曲者は、自分の作品がこうして遠い国日本の、

しかもお寺の中で奏でられる日が来るなんて想像もして

なかったでしょうね!!


入場は無料です^^

是非是非ふらーっと遊びにきてね☆

聴音は多分できている。


筆記試験も、留学経験のある友達や先輩の

資料を借りまくって勉強していたので、100%

自信があるかといえば、そうでもないけれど、

及第点は行ってるはずだ。


「どうだった?」


試験会場から這い出すと、リトアニアの少女が

笑いながら声をかけてきた。


「うーん・・・。一応全部埋めたけど・・・」


「ね!簡単だったわね!私、出来たわ!」


自信満々な彼女の言葉に、何だか急に不安になる。


「結果は、夕方に張り出されるって」


うーーーん

いやだな、見るの。

こういうの、本当に久しぶり。


「ところで、明後日の実技は何弾くの?」


そうそう。


一番大切なのは何ていっても実技だ。


私が持って来たのは、

プロコフィエフのバイオリンコンチェルト2番

パガニーニのカプリース20番

そして、ブラームスのソナタ1番。


弾くとしたら、プロコフィエフとパガニーニの2曲だけだろう。

ブラームスはあんまり練習していない。

まあ、でも試験にソナタなんて弾かせないだろう


しかし、、、、、

この思い込みに、私はこの後痛い目を見ることになる

「聴音から始めるんだって。」

となりの子が試験官の言葉を英語に訳してくれる。


あああ、いい子だ。


ちなみに。

聴音というのは、試験官がピアノで弾いた音符を

譜面に書き取る作業。


学生の時、得意だったとはいえ、長いことやっていない。

大丈夫かな。


と、試験官がピアノを弾き出した瞬間。


はぁ?


私の全身からガックリ力が抜けた。


か、簡単すぎる・・・・・・・・(汗)


ひょっとしたら、、、こういう聴き取りの訓練は、日本の方が

進んでいるのかもしれない。


それにしても。


一週間前ウィーンにきてから、ずっとずっと苦手な英語と、

絶望的なドイツ語だけで生きてきた。


いつでも緊張して耳を傾けていないと、人の言葉は理解

できなかったし、どんなに集中しても、まったく聞き取れない

ことも多くて泣きそうだった。


でも、今は違う。


ここにきて、初めて抵抗なく聞き取れた言葉、それは


日本語でなく、


音楽だった。


久しぶりに母国語をきいたような穏やかな気持ちで、

私は聴音の課題を終えた。