どーにか自力で試験会場を探しあてた私達。
しかし・・・
いーかげんだなぁ・・・・
試験会場は、3つあるはずなのに、どこで待てとか、
どの専攻の人がどの教室に行くべきかとか、何にも
表示されていないのである。
そういえば、受験票もなければ、受験料もないし。
なんか、日本の受験と比べると、あり得ないくらい
テキトーである。
試験会場の前には、放浪の末、流れ着いた受験者が
ポツポツ集まり始めた。
「これ、過去問。」
去年の問題を開いて、皆で眺める。
聴音が、半分。
私が心配している筆記は、半分。
でも、筆記もドイツ語ではあるが、システムは日本で勉強
したことと同じだ。
いけそう。
10時になって、試験官がやってくる。
私達は、牧場の羊のように数を数えられながら、試験会場に
放り込まれた。
それにしても、すごい数の受験者だ。
結構受験者同士密接してるから、カンニングし放題かも
しれない
邪なことを考えていると、試験官が突然問題集を手に
何かしゃべりだした。
案の定意味不明である。
「ねぇ、あのオジサンなんて言ってるの?」
小声で隣の少女に尋ねる。
「名前を書き忘れないように、って」
・・・・・はい(笑)
私が思わず吹き出すと、彼女も顔をほころばせた。
リトアニアの少女より、さらに幼く見える。
「あなたどこから来たの?」
「日本よ」
「私は、現地人。聴音苦手なの!」
キラキラと笑う彼女に、すっかり気持ちが落ち着く。
配られた答案用紙をめくる。
うん、いけそうだ!
苦手なドイツ語で呼び止められて、思わず身を硬くした私。
でも、その後彼女の口からついて出た言葉は英語だった。
「この部屋、どこだかご存知ですか?」
そう言い、試験会場の書かれた紙を指差す。
「それはまさしく私も今探してる部屋ですねぇ」
私が笑いながら言うと、彼女は拍子抜けをした表情に
なった。
眩しいほどの金色の髪、透き通るようなブルーの瞳。
モデルのようにスラリと伸びた四肢。思いっきり見上げ
ないと、会話ができない。
いくつなんだろう。
17・8なんだろうな。
ヨーロッパの子は、年齢の予想がつかない。
「どこから来たの?」
暗黙のうちに、なんとなく一緒に部屋を探す流れに
なって、私は彼女にそうきいた。
「リトアニアよ。・・と、言っても皆わからないけど。
ロシアの近くでね、バルト三国っていう所」
知ってるよー
何人か知り合いもいるし。
9月はアンサンブル金沢は、クレメラータバルティカと
合同演奏するよー
・・・・・・とは、話がややこしくなるので言わなかった。
「リトアニアかぁ。ステキね。いつウィーンに来たの?」
「私?私はもうここに1年住んでるわ。どうしてもこの大学に
入りたくて。あなたは?」
有給休暇つぎ込んで、やっと一週間前に来て、試験が終わった
らその翌朝飛行機に乗って、速攻日本に帰って仕事。
・・・・・・・・・とは、また恥ずかしくて言えなかった。
「日本」
「ジャパニーズなのね。学科、勉強した?」
「全然だめ。私問題読めないもん。」
「ええー?ウソ!?でも、あなた絶対音感はもってるの?」
「うん」
「じゃあ大丈夫よ。聴音で稼げば!」
「そうかな。あっ、そういえば過去問持ってる?」
なんか、こういうのって久しぶり。
少し、学生時代を思い出しながら、私達は学校の敷地奥に
ある、新しいガラス張りの建物に向かった。
そうこうしているうちに、一次試験の日になった。
一次は、なんと学科。
音楽理論だ。
学生の時、割と音楽理論は得意だった。
だから、苦労せずに問題を解く自身はある。
・・・・・問題が日本語で書いてあれば。
一次試験は朝10時から。
私は朝が弱いので心配していたのだが、ヨーロッパにいると
時差ぼけのおかげで、毎日7時に目が覚めて、
12時には眠くなる。
時差ぼけ状態のほうが、よっぽど規則正しい。
なんか、皮肉だ。
とにかく、この学科試験にすべったら、実技すら聴いてもらえ
ない。
それだけは、なんとしてもなんとしても避けたい!
緊張のあまり、一時間も早く学校に行ってしまう。
えっと、試験会場はどこだったっけ
確認しようとした時、
「Entschuldigung Sie bitte」
声をかけられて、振り向くと、金色の髪の少女が立っていた。
学校を見学して、帰ってきた私は、なんだか力が
抜けてしまった。
マーラは、仕事。
先生には、相変わらず連絡がつかない。
一人ぼっちでソファに寝転んでいると、静けさが
しんしんと肌に浸透してくる。
年齢っていうハンディを抱えて、
私、なんでこんな頑張ろうとしてるんだろう
日本にいて、
オーケストラで仕事して、
お給料から、かわいい靴やバッグを買って、
ちょっと大きめなマンションに住んで、
仕事の後は、友達とパーティーしたり、映画に行ったり、
それでいいじゃん。
なんで こんな一人ぼっちで頑張って、
大変な方、大変な方に歩いていこうとするんだろう。
どうして、普通に幸せになろうとしないんだろう。
私はどこに行こうとしてるんだろう。
孤独で泣けてくる
弾けない。
弾けない。
あんな若い子達みたいに、高らかにエネルギーを放って。
だめだ。
頑張れ私。
いま頑張らないでいつ頑張るの。
夜明け前が、一番暗いんだ。
黄色い。
私の学校の第一印象は、それだった。
ウィーンミッテとシュタットパークの間にあるその学校は、
小鳥の鳴き声が溢れる、広々とした庭に、鮮やかな黄色
さを放って佇んでいた。
生徒達は、窓を開け放って練習している。
もうすっかり、ここの空気は夏の熱気を孕んでいるのだ。
「エルンストの魔王・・・」
私は思わず息を飲んで足を止めた。
その曲は、私にとって本当に本当に難しい曲で、
何回も演奏会で弾こうとして挑戦しては、挫折した
苦い思い出のある曲だ。
それにしても。
これを練習しているのは本当に学生だろうか?
美しい音程、息をのむ緊張感
私はただ弾くだけでも精一杯だったのに、
この人は、さらに美しい音や緻密な表現を求めて
同じパッセージを繰り返し繰り返し研究している。
耳をすませば、あちこちから流れてくるバイオリンの
メロディーの断片の、なんていうレベルの高さ!!
私は・・
私は、こんな化け物達と戦うのだろうか
怖い。
ものすごく久しぶりに、そう思った。
、
借金取りじゃあないんだから。
自分のしつこさにちょっと呆れる。
ウィーンにきて、レッスンしてもらえるはずだった
先生に、何度も電話しているのだが、全くつながらない
のだ。
「失礼よね、せっかく日本から来て、約束通り電話してる
っていうのに。でも、彼女はスペシャルケースだけど、
割りとこっちの人間は、みんなそういうところあるかもね。」
ため息混じりに、マーラ。
そんなもんだろうか。
日本だったら、幾ら忙しくても、これだけ何回も電話して
メッセージ残してたら、どんな人でも何かしらの返答はくれる。
でも、ここは日本じゃない。
日本だったら、はご法度だ。
「学校見に行く?案内してあげるよ。」
鬱々とする私を見かねて、マーラはついに私を
外に連れ出した。
ウィーンの町は、本当に美しい。
宝石箱のようだと思う。
「鳥が歌ってる。」
「え?日本の鳥は鳴かないの?」
「もちろん鳴くよ。でも、こんな風には歌わない。」
鳥も、歌心に溢れている。
日本とヨーロッパ。
違いをひしひし感じるのは、目覚めの教会の鐘の
音を聞くときだ。
光と風に溢れた、清潔なマーラのフラットで目を覚まして
ウィーンにいることを思い出す。
もう既に起きていたマーラが、紅茶を入れながら言う。
「買い物に行こうよ。パスタとトマトはあるんだけど、・・
それだけだから。」
さすが、イタリア人。
ところで、ドイツも、オーストリアも、買い物に行く時は
マイバッグが欠かせない。
日本では、小さなペンと消しゴムだけを買ってもついてくる
ビニール袋や、紙袋は、こちらでは有料なのだ。
環境問題に対する意識は、日本の方がずっとずっと遅れて
いると思う。
ウィーンに滞在した数週間、日本でマイバッグを持参する
習慣のなかった私は、これから何度も買い物の道半ばで、
バッグをとりにアパートまで引き返すハメになる(笑)
Renweg の駅に降り立って、マーラに電話をかける。
彼女がしばらく私を居候させてくれるのだ。
世界ケータイに心から感謝。
昔はこれなしで、どーやって海外ツアーしてたんだっけ。
記憶にない。
一度便利になると、本当元に戻れないものだ。
「ゴメン、ノリコ。今向かってる最中!ちょっと遅れるの、
理由はあとで話すから!」
携帯の奥で、雑踏とともに懐かしい声が響く。
待つこと10分。
「お待たせ!!」
変わらない笑顔で彼女が駆けてきた。
「ごめんね、遅れて。」
「いーよー。ごめん、わたしこそ、急に押しかけて。」
「今、全部リンクが止まってるのよ」
えっ?
リンクというのは、ウィーンの町をぐるりとはしる、かわいい
電車のことです。プチ山手線みたいなやつです。
「事故でも起きたの」
「まさか!サッカーよ」
ええ?
「この国は、サッカーで電車がストップするの?」
「そーよ。大事なユーロカップの開催がまさに、ここ、
オーストリアなのよ!今月いっぱいはリンクは使え
ないわよ!」
あっけにとられる私を置き去りに、
「タクシー!」
陽気にタクシーに手を振るマーラ。
日本ではあり得ません。
どーなることやら!!
日本というのはなかなか素晴らしい国だと思います。
ヨーロッパに行くと、どーも納得できないことが多々
起こります。
ウィーンの空港に到着し、荷物をGET。すると、
あらら。
ガクンっ
といきなり平衡を失うスーツケース。
みれば、車輪が一つ消えています。
あーあー、消えるなら日本の空港で消えてくれれば
いいのに。
スーツケースの故障は、空港で「すぐに」言わないと、
なかなか保障されないこともあるんです。
でも、ドイツ語で文句言わなきゃいけないのかなぁ・・
憂鬱です。
でも、とりあえず泣き寝入りは出来ないので、空港の
オフィスに行き、英語で話しかけてみる。
よかった。通じた。
この町はインターナショナルなので、わりとどこでも
英語が通じるのがせめてもの救いです。
日本国内での無料修理の約束をとりつけ、空港から
市内に向かいます。
ウィーンの空港から市内に向かうには、電車やバス、
タクシーなどの手段がありますが、フツーの電車に
乗っても30分ほどでつけます。
切符を買い終わった瞬間、ホームに電車が流れ込んで
きます。
確か、この電車だったはず!
慌てて乗車。
乗車後、めちゃめちゃ耳を済ませますが、まだまだ私の
耳では、ドイツ語のアナウンスは、車輪やトンネルの雑音
に紛れてしまうと、全く聴き取りができません。
本当にこっちでよかったんだろーか・・
不安になって、地図を覗き込んでいると、
「大丈夫ですか?」
と、英語で助けの手。
人なつっこそうな、笑顔を浮かべた男性だ。
「あのう、Renwegに行きたいんですけど・・」
「この電車で大丈夫だよ。君、バイオリン勉強しにきたの?」
私の巨大なスーツケースと背中に背負ったバイオリンを
楽しそうに見比べて、彼。
「ウィーンの国立音大を受けたいの。」
私の言葉に、ちょっと彼は目を丸くして、
「そうか。今週・・いや、来週だったね。」
今度は私が目を丸くする番だった。
「どーしてご存知なんですか?」
「僕は、ウィーンフィルハーモニーというオーケストラで
演奏しているんだ。ちなみに、ウィーン大学で教授も
してるんだよ」
あらま。
そういえば、前回ウィーンに来た時、初めて私に声をかけて
くれた人は、カールベームの甥っ子さんだったっけ。
ウィーン。
こういう街です。
一ヶ月近く金沢を離れていました☆
普段から旅の多い私も、さすがに久しぶり感
があります。
どこにいたかというと、再びウィーンにいました♪
何しにって、もちろん、
サッカーヨーロッパカップを見に
いえ!!
勉強しにです!!
昼間はほとんど家に篭城して練習していたのですが、
夜外にでると、色とりどりのサッカーのユニフォームに
身を包んだ人の群れに驚かされました。
実にインターナショナルな町なんだと思い知らされます。
「You come exactly right time!!!」
(ホント、いい時来たわよね)
と、私を居候させてくれていたイタリア人のマーラ。
いや、だから、
勉強しにきたんだってば!!!(笑)
しんどくも楽しい一ヶ月。
またちょっとずつ書いていくね。












